情景 2019年2月21日

軽井沢ALL

かぜのーと編集部
投稿者 | かぜのーと編集部

2019年2月21日

「もう少しで中部小学校に着きます。ミュージック、発明家、木工作の人、そろそろ降りる準備をしてください。」

私がこのバスを運転するようになって3年が経つ。月曜日から金曜日までの放課後、東部小学校→軽井沢中学校→風越公園→軽井沢風越学園→中部小学校→西部小学校を循環している。小1から中3まで、町の子どもたちなら利用は無料。この循環バスがスタートした時には1台での運行だったが、利用者が増えた今は2台体制だ。

「ありがとうございます。いってきます。」
「はい、いってらっしゃい。もう少しでコンサートだね。」
「うん、まさるさんも聴きに来てね。」
「もちろん。練習、がんばってね。」

7年前に軽井沢に移住した時には、知り合いはあまりいなかった。ところがこの活動に携わってからは、孫世代の子どもたちとの関わりがぐっと増えた。週末にツルヤで買い物しても、「まさるさーん」と声をかけられることがある。照れくさいが、うれしい。都内で生活していた時には、「まさるさん」と呼ばれることなんてほとんどなかった。大袈裟な表現かもしれないけれども、人生が変わった気分。

子どもたちの放課後も変わったようだ。私が移住する前までは、各小学校の敷地内にある児童館で学校単位で学童保育が行われていたそうだ。まずは宿題をして、その後に、児童館内や学校のグラウンドで好きな遊びをしていたとのこと。

ところが、今から5年ほど前から子どもたちの放課後が大きく変わった。学校の区別なく、町のあちこちで小学生と中学生が混ざり合い、心と身体を開放して、思いっきり遊んで学んでいる。この町の子どもたちは、たぶん日本で一番放課後を満喫しているんじゃないだろうか。幸せそうだ。

そのきっかけとなったのが<軽井沢ALL>。2020年頃から活動を始めたこのNPOが最初に取り組んだのが、町の小学校と中学校の図書室の充実化。まずは、できることからやってみようということで、学校司書の先生と協力しながら、子どもたちがもっと来たくなるような図書室に模様替えし、本を手にしたくなるようにPOPなどを工夫したり、朝の時間に絵本の読み聞かせを行った。そうした活動をしていくうちに「もっと子どもたちのためにできることがあるんじゃないかな?」「軽井沢の子どもたちがもっと混ざり合うようにするためには、どうしたらいい?」「大人もおもしろがってやれたらいいよね」と盛り上がっていき、次のような取り組みが順次展開されていった。

  • 軽井沢中学校、東部小、中部小、西部小、軽井沢風越学園の蔵書のデータを統合し、横断的な検索、貸し出し可能に
  • 軽井沢町長杯ビブリオバトル(おもしろいと思う本の魅力を5分間で紹介しあう)大会の定期開催
  • 子ども、保護者、地域の人たちが混ざり合いながらのブッククラブ

今となっては、町中で当たり前のように行われているこうした活動も、スタートした頃には様々な苦労があり、時間をかけて定着していったようだ。

こうした「子どもと本」をテーマにした活動をきっかけに、地域の人々の熱が少しずつ高まっていった。そしてその後、様々な試行錯誤を経て、町内の児童館と学童保育の運営、中学生の部活動の指導を<軽井沢ALL>が受託し、子どもたちの放課後を充実するための活動に力を入れた。学童保育がテーマごとになり、各小学校に加えて、中学校、風越公園、軽井沢風越学園も拠点として加わった。例えば、今のテーマと活動拠点は以下の通り。始まった頃はもっと少なかったらしいが、子どもたちの興味関心の広がりと担い手の登場によりテーマがどんどん増えていったようだ。

  • 中部小学校… ミュージック、発明家、木工作
  • 東部小学校… 伝統文化(お神楽と軽井沢彫り)、プログラミング、手芸
  • 西部小学校… 伝統文化(馬子唄)、郷土研究、料理、田んぼと畑
  • 軽井沢中学校…演劇、英語劇、バレーボール、バスケット、卓球、柔道、剣道、陸上
  • 軽井沢風越学園… 数学探究、自然観察、起業塾、アート
  • 風越公園…フットサル、サッカー、バトミントン、体操、ダンス、野球、硬式テニス 、カーリング、スピードスケート、アイスホッケー、水泳

私も月水金はこの循環バスを運転しているが、火木は起業塾を担当している。私自身はどうしても過去の自分の経験に引きずられて発想してしまいがちなのだが、子どもたちのビジネスアイディアは柔軟だ。そうした子どもたちのアイディアの実現性を高めるための問いを投げかけていくのが私の役割だ。

中学生の部活動は、運動系も文化系も地域のクラブチームや団体と一体化し、小学生も混じって練習している。指導するのは学校の先生ではなくクラブチームの指導者や地域の人たち。こうして子どもたちの放課後も変わったが、特に中学校の先生たちの放課後が大きく変わった。部活の指導の代わりに授業準備をしたり、1日の振り返りをする余裕も生まれたのだ。お茶飲みながら集まって先生同士でおしゃべりする機会も増えていった。

放課後の充実化の取り組みが軌道にのった今、<軽井沢ALL>は新しい取り組みを展開し始めた。次はお昼の時間帯の充実化だ。

ある日、図書室の本の修繕に出かけて、お昼の時間帯の様子を見て驚いた。子どもも先生もとても忙しそう。給食の配膳、いただきます、ごちそうさま、下膳、掃除…。それが終わったら、ちょっとだけ遊び。遊びがノッてきたかなと思うと、チャイムが鳴って5時間目のスタート。「何かできないかなぁ」と<軽井沢ALL>での検討が始まった。子どもたちにはもっとゆったりとお昼を過ごしてほしい。先生たちにはちょっとでもいいのでお昼は休んでほしいし、この時間帯に簡単な打ち合わせもできるといい。学校とのミーティングを重ねていった。そうして、「お昼の休みを10分間長く」「<軽井沢ALL>のメンバーが教室に入る」「先生たちは教室を離れる」、そんなことを思い切って取り組んでみることになった。

アレルギーの情報をどこまでどのように共有するか、子どもたちの安全管理をどうするかなど、解決しなければならない問題もたくさんある。循環バスの時も、学童の時もそうだった。イヤになるくらいにいろいろな問題が起こる。新しいことに取り組み、続けていくにはエネルギーがいる。意見が衝突し、困難にぶつかったら「子どもたちの幸せ」という視点に立ち返ろうと、スタッフと学校の間で何度も確認している。このお昼の時間帯の活動が軌道に乗るには、もう少し時間がかかりそうだ。

放課後(After school)、図書室(Library)、お昼の時間(Lunch)。この頭文字を取りALL。そして、軽井沢のすべての子どもの幸せを願って<軽井沢ALL>と名付けられたということだが、これから近いうちに頭文字以外の活動を展開していくのは間違いないだろう。

(2019年2月21日版)

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