この地とつながる 2019年8月19日

食べられる赤い実、食べられない赤い実

本城 慎之介
投稿者 | 本城 慎之介

2019年8月19日

 

ウグイスカグラの花

4月下旬になると桃色の小さな花が下向きに咲き始める。そして初夏、軽井沢でエゾハルゼミが鳴き始める頃、この花は太ったラグビーボールのような真っ赤で艶々な実へと姿を変える。ウグイスカグラだ。森で遊び、暮らす子どもたちは、エゾハルゼミの抜け殻探しとウグイスカグラの甘い実を食べるのに忙しくなる。鳥が食べたのと子どもたちが食べたのと、どちらが多いのかはわからないが、やがてこの実も姿を消す。

ウグイスカグラの実

すると、ウグイスカグラと似たような姿の低木から同じような真っ赤で艶々な実が森に現れる。ただ、明らかに形が違う。ひょうたんのような形のこの実、強い毒がある。その実の姿が所以だろう、こちらにはヒョウタンボクという名前がついている。

ヒョウタンボクの実。全国的に分布が限られて貴重だ

食べられる実をつけるウグイスカグラも有毒な実をつけるヒョウタンボクも、どちらも同じスイカズラ科スイカズラ属、そっくりなのも納得。食べる前にちゃんと実の形を見て食べられるのかどうか自分で判断するか、知っていそうな人に確認したほうがいい。とにかく森の実は絶対に何も食べない、というのもひとつの選択肢だろう。ただ、ちょっとそれは寂しい気もする。

「この実はね、食べられるんだよ、おいしいよ。」「ほら、前の赤い実と形が違うでしょ、ゴツゴツしてるでしょ。これはね絶対に食べられないからね。毒あるから。触っちゃだめだよ。」と、森の中で5歳児が年下の人たちに伝えている姿を日常的に見てきた。もちろん最初は大人が伝えた。すると、子ども同士が伝え合うようになっていく。そのうち、森を訪れた大人たちに、子どもたちが得意げな表情で伝える。有毒なものが子どもの身近にあることを心配したり、不安に思う訪問者の中には、「猛毒のようですけど、どうして伐採しないんですか?」と、もの問いたげに投げかけてくる人もいる。そういう投げかけには、「あぶないものはすべて目の前から排除すればいいんでしょうか?」という言葉は飲み込んで、「どうして伐採しないと思いますか?」と問い返すようにしている。

ウグイスカグラとヒョウタンボク、どちらも軽井沢風越学園の森にもたくさんある。ヒョウタンボクを伐採するつもりも、<たべるな>という看板を立てるつもりも全くない。子どもたちには、どちらとも上手に関わってほしいと願っているし、実際に子どもたちは大人が想像する以上にキケンと上手に関わるようになる。

有毒な植物、触れると怪我しそうなもの、崖や川、倒れそうな木、蜂やダニ、ヘビにイノシシ、そしてツキノワグマ…。軽井沢風越学園の環境には、キケンがたくさん存在している。それらのキケンを取り除きすぎたり、遠ざけすぎたりすることで、何がキケンなのかがわからなくなることは避けたい。大人が大人の事情で作り上げる過剰に安全な環境で育つことは、子どものキケンへの感度を著しく鈍くする。日常的に身近にキケンがたくさんあることで、その存在を認識し、つきあいかたを学んでいく。そしてキケンを過剰に排除していくことは、異質なものを徹底的に排除しようとする意識や行動にもつながる。キケンとも、異質なものとも、しっかりつながって生きていってほしい。

本城 慎之介

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投稿者本城 慎之介

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