この地とつながる 2019年7月18日

雨 と ひとつ

岡部 哲
投稿者 | 岡部 哲

2019年7月18日

水を張った田圃に稲が植えられると、千差万別の緑を湛えた野山は、燃える緑へと一気に収束する。そして、霧の軽井沢の季節がやってきます。この地に生きる子どもたちにとって、こんな自然は見慣れた日常。それでも、劇的な自然と出会い、不意に考えることを忘れた瞬間に、一生忘れられないような実感を味わうことがあります。

これは、小さかった僕と雨との出会い。

「雨 と ひとつ 」

学校からの長い帰り道が始まる。
黒い雲がうねっている。
強めの風が吹くや否や、ポツリ、ポツリと雨。
いつものように傘はない。
道路のシミはたちまち成長し、アスファルトを黒く染めあげる。
水たまりを避けるように家路を行く。
景色が白く瞬いて、空気を揺るがすほどの雷鳴が轟く。
「バチバチッ」という、いつもとは違う雨音が、通学用のヘルメットを打ち付ける。
思わず上に目をやるが、暖かい雨の弾丸は、とても直視できない。
遠くには、雨に煙る山合の村。
通学路は次第に川と化していく。
雨と雷鳴の轟音の中、突然ワゴン車が通り抜け、
水のカーテンが、大袈裟に襲いかかると、
すっかり濡れた全身に気がついた。

今度は自分で水たまりを攻める。
足の裏から、水の傘が開いては消える。
大きな傘で逃げるように走る上級生よりも、
強くなったような優越感。
しかし、雨が強くなるほどに、身体に感じる感触、温かさ、音、色、匂いは楽しさに変わり、気持ちは 雨とひとつ になっていく。
雨は畦道のあらゆる露をさらい、
雨はごうごうと飛沫を吐き出す水路を逆巻き、
雨はじっと雨宿りする鳥を眺める。

感覚の全てが励起する。その喜び。
雨とひとつになる。その自由。

やがて、次第に雨脚が緩み、世界は目覚めるような透明感に包まれた。

岡部 哲

投稿者岡部 哲

投稿者岡部 哲

モノづくり大好き。佐久穂生まれの図工の先生で、クライマーでした。この先は手探りです。

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