こらぼジャーナル(3)「ゆりなの算数探究(後編)」

前回、1つめの立方体の積み木を完成させたゆりなは、次の日、自己主導の時間に入るとソッコーで工作コーナーへ向かいました。今日の課題は積み木の2つめ。この2つめの積み木、見ていただければわかる通り、複合立体図形です。3つの直方体が重なり合っています。写真では見えませんが、3つの直方体の重なり部分は、きっちりと合わさってはおらず、小さな立方体状に隙間が空いています。これは難しい…。このままの立体を展開図に書くのは大人でも難しいでしょう。

でも、この立体、よく見ると継ぎ目があって、その継ぎ目にそうと、3つの直方体で構成されているのがわかります。ゆりながここに気付いたのが、まずすごい。3つの箱を作ればいいんだと認識します。しかし、写し取ることで展開図を書いてきたゆりなは、この重なり合った形のままでは、一つ一つの直方体を写し取れないことにすぐ気付き、前回の最初の時と同じように、定規を持ち出して辺の長さを測ろうとします。

しかし今度は直方体…3種類の長方形の面があります。めんどくせー!ということなのか、やはり写し取る作戦です。写し取れるのは他の直方体と重なっていない4面のみ。下の画像、左上の長方形は、最初に端っこに書き過ぎて、これじゃ全部書けないと気付いたものです。さらに、4面写し取った展開図には墨塗り部分があります。最初っからシッパイ続きです。くじけるな〜がんばれ〜

さて、写し取れない残りの2面を、さあどうする? ここでちょっと席を離れたので、どうしたかはわからないのですが、戻ってみたらいつのまにか展開図ができて切り始めています。

しかーし、よーく見てみると…ん?面が1、2、3…7面ある!!むー、シッパイ!!
ということは、前回、箱の形は面が6面と理解していたのではなく、あくまでも1対1対応で写し取った結果6面になったということで、今回4面だけしか写し取れなかった後、残りをどうするか、うんうんと考えたんでしょうね。「ほらほら〜やっぱり2年生は一つ一つ面を写し取って6枚あるって確かめてから1枚ずつ貼って箱を作るのがちょうどいいんだよ〜」っていう教科書会社の嘲笑が聞こえそうですが、大丈夫!!ゆりな、前に進むのだ!!余った面はのりしろにでもすればいいのだ!!でも、枚数は間違っているものの、この面のつなぎ方、ちゃんと頭の中で箱を作り上げていますよね。MI(マルチプルインテリジェンス)でいうところの空間的知能、かなりある子ですね。

動画1

さて、工作開始!チョキチョキと切り取って線に沿って折り目をつけています。余った面もしっかり折られて、のりしろの役目をいまかいまかと待ち構えています(笑)。

動画2

セロハンテープで箱の形にします。1回めの「できた」です。実物と重ね合わせ、ぴったりかどうかを確かめています。「同じの作んなきゃいけないんだよ」と、ちゃんと理解しているけど、けだるそうな声がなんとも言えずいいですねぇ。

動画3

2個めの直方体に取りかかります。1面を写し取ったところで「失敗した」の声。紙が小さくて、展開図をすべて書ききれないことに気付いたようです。ここからがおもしろいところ。ゆりなは一つめの直方体の展開図を切り抜いた紙に書いてあった、端っこに書き過ぎて使えなかった長方形の1面を切り抜き始めます。何か言っているのですがよく聞き取れません。新たに展開図を書くなら必要ない作業です。さて、この紙、どうなるんでしょう?ゆりなは何を考えてこの紙を切り抜いて取っておこうとしたんでしょう?気を取り直し、大きな紙を切り出して、展開図のやり直しです。

動画4

慣れた手つきで面を写し取っていきます。

ここでちょっと考えてみましょう。3つの直方体が同じものであるとわかっているなら、同じ展開図を最初に3つ書けばいいじゃないかと思いませんか?なぜゆりなのような思考回路になるのか私は専門家ではないのでよくわかりません。でも、ここで言いたいのは、子ども固有の探究のプロセスは、子ども自身に委ねていかなければ分からないということなんです。実際、この後の様子を読んでいただければ分かるように、3つの直方体の展開図はどれも同じではありません。効率よく「教える」または、子どもに失敗させないで「課題達成させる」なら、最初に正しい展開図を教え、それを3つ書かせればいいだけです。しかし、それで課題を達成したとして、学習者は達成感を得られるのか、それは本当の意味での「理解」と言えるのか、はなはだ怪しいと私は考えます。

動画5

同じ2年生の女の子がゆりなの様子を見に来ましたが、ゆりなはまったく気にせず写しています。質問されたので自分のことをやめて受け答えし、説明もしています。他の子にちょいと質問されて、するりと相手になる、でもって、するりとまた自分の課題に戻ってくる…ここらへんのゆるやかなつながりの持ち方がとってもいいですね。「たいがの算数探究」の時はゆりなは関わっていく側でしたが、互いのやりたいことや、してほしいことを分かっていた上で関わり合い方を考えているような気がします。

展開図が見えたところでストップしてください!!そして展開図をよく見てください。あれ???一番大きい面のとなりに同じく一番大きい面が…これは…たぶん…シッパイです。指摘はせずに、ハラハラドキドキしながら見守ります。黒塗りしてある部分もあって、この段階でも試行錯誤していることが分かります。

動画6

結果的に、一番大きい面が3つ並んだ状態に、一番小さい面が2つついた展開図を完成させました。今度は全部で5面です。大きさが違う面をつなげてしまうし、面の数も足りない…さあ、どうするんでしょうか?ここから私は驚くべきものを見てしまいます。驚嘆せずにはいられない。これは最初から意図していたのか?

まず展開図を折っていきます。とうぜん大きい面は長さが長すぎて、びよーんと飛び出してしまいます。しかし、ゆりなはおもむろに、余った部分を折ってしまいます。そして、それを足りなかった1面の部分として使うのです!すげーリカバリー!!でも長さが足りない…残念…と思いきや、みなさん覚えていますか?あの1面を!!そう、3番めの動画で、シッパイした展開図から切り抜いた、あの1枚が登場します。それをペタッと上から貼り付けて完成させます。

これ、最初から意図していたんでしょうか?あの失敗した紙をここで使うために5面の展開図を書き、さらに、この紙をつけるために、ちょっと側面の長さを長くして、のりしろの役目を持たせたのか。どうなんでしょう。聞いてみたい!そうだとすると、ゆりなは、箱のかたちは6面であるということを理解していることになります。どうだ教科書め!!と吠えても仕方ないので先に進みましょう。

動画7

2個めの直方体が完成します。できあがった2個の重なりを実物と比べながら考えています。ここもけっこう難しいところです。重なり方がわかったのか、テープで2つをくっつけています。

動画8

3個めはすでに完成したところから。3個めの展開図は、完璧な6面の正しいものでした。できたと思ったら、「つつむ〜」とか言ってます。なんだろうと思っていると、鉛筆の線が見えて嫌だったらしく、それを隠すために新たに1枚切り出して貼り付けていました。こだわりますね〜。もうこの時すでに時計は帰る時間の6時を回っています。お迎えについて来た弟が見に来ましたが、おねえちゃんのあまりの真剣さに何も突っ込まず立ち去ります(笑)。

動画9

いよいよ3つを合成するときがやってきました。クライマックスです。ドキドキ…。実物を確かめながらどうやって重ねればいいか考えています。実はその時私は気付いていたんですが、最初の2個の重ね方が間違っていたんです。残りの1個を、いろいろなパターンで重ねるも、実物通りにはならない。とっても困っていました。ファシリテーターとしての私の予想は、たぶん2個のつなぎ方の間違いに気付き、それをほどいて、やり直すだろうと思っていました。しかーし!!ゆりなはおもむろにはさみをつかみ、飛び出すところをちょん切ろうとします。笑いながら…。「ん?ん?ちょっと待って、待て待て」と慌てふためく私の声が聞こえますでしょうか。ここまでのゆりなの算数探究で、はじめての介入をしてしまいました。うーん、ここはどうだったんでしょう。もしあのままほっといていたら、完成はできなかったでしょう。またやり直しです。でも、そこから気付いたことはもっと強烈に残ることは確かです。しかし、あの場面で黙っていられる人がいたとしたら、私は心から尊敬します。

動画10

さあ、最初の2個をばらして組み直しです。実物を見ながら「こう?」とか言いながら確かめつつ正解を探します。2つの組み合わせがわかりました。短い時間ですけど、試行錯誤が繰り返されています。この試行錯誤の繰り返しをひたすら重ねてきたんですね。

動画11

いよいよフィナーレ。3つが重なり合います。そして、静かに「できた」と。顔もちょっとお疲れモード。実物と比べたり、実物の立方体をはめてみたりしています。ほんとぴったりでした。

この日の成果物。立方体と直方体の複合立体が重なったところ。美しい。

今回のジャーナルの中でゆりなが間違えたところに、「シッパイ」という言葉をあえて入れています。このシッパイとは、一般的な大人の考える失敗です。ゆりなも時々「失敗した」と言っていますが、大人にとってみると、ゆりなの言う失敗ってどうでもいいことなんですよ。例えば展開図を書いた紙が小さすぎたとか…。大人の言うシッパイは、展開図の書き方の間違いや、立体の定義を知らないことから起こる間違いです。でも、ゆりなはそういうシッパイが起きてもまったく気にせず、彼女なりのやり方でガシガシ立体を作っていきます。そして、シッパイを繰り返していくうちに、ちゃんと正解にたどり着きました。しかし、得てして大人は、予想されるつまずき(シッパイ)を防ぐために、事前に手立てを考えて取り組ませてしまいがちです。

ゆりなの目的はあくまでも「積み木を再現すること」。立方体や直方体の定義を理解することでも、展開図の書き方を覚えることでもないのです。3番めの動画で失敗した1面の紙を使って箱を作ったところを思い出してください。いいんです、展開図を正確に書くことなんかどうでも。「これは立方体、これは直方体、作るときに書いたのは展開図って言うんだよ」、「立方体ってさ、全部の面が同じだよね、直方体って、向かい合う面が同じだよね、その性質を使えばもっと簡単に展開図を書けるよ。書いてみようか」とか、私はゆりなに言いたくありません。

ゆりなは積み木を再現しました。今彼女が持っているあらゆる力を使って完成させました。その積み木は立方体であり、直方体です。展開図を書いて作りました。学習のコンテンツは学校で習うものと一緒です。だがしかし、そのスタイルは学校とはまったく違うものです。以下に今回のゆりなの学びのスタイルを挙げてみました。とても創造的な学び方だと思いませんか?

ゆりなの学びのスタイル
1)動機
・今自分が必要だからこのコンテンツに触れることになった。
・はじまりは自分の知的好奇心。

2)環境
・時間を自分でつくった。
・テキストはない。
・自分で環境をつくった。

3)方法
・誰からも教えられていない。主体的にやる。
・トライアル&エラーの繰り返しで課題を達成する。
・体験と感覚のみで達成した。

4)実感
・楽しい。
・学ぶことが広がる。深まる。自由。
・自分自身でやり方を見つけた。創り出した。

ゆりなの学びは、「価値創造型の学び」です。これから、ゆりながどこかのテキストで、ゆりなが今回学んだことと同じことに出会った時、彼女が何と言うか、とても楽しみです。

今回のこの一連のゆりなの探究で、私はゆりなの学びのスタイルを理解することができました。これからゆりながまた別の探究をするときに、今回のことを参考にサポートやカンファランスすることができます。そして、「探究って何?」ってことにちょこっとだけ迫れた気がしています。ちょこっとだけね。

【おまけ】
ゆりなの「◯◯を再現する」という探究は今も続いています。ゆりなの再現へのこだわりはもう一つあって、それは「ミニチュア」であるということなんです。これ、数学的に考えると高度なことで、縮小やら相似やらこじつけようと思えばいくらでもこじつけられる数学的探究です。でも当のゆりなは、「小さいのはかわいいから好き」というまたまた大人を悶絶させるようなこだわりの理由をのたまっております(笑)。

その後の作品たちの一部を紹介します。

ミニ空気砲1(手前)
ミニ空気砲2
ミニチュア鯛焼きの型
ミニプレゼントボックス(星型)
ひみつのノート
ミニチュアランドセル