こらぼジャーナル(1)「たいようの算数探究」

こらぼジャーナルでは、放課後まなび場「風越こらぼ」に参加している子どもたちの探究の様子をお伝えします。

たいようは、前から算数が得意だと聞いていたので、たいようが来る日に算数的なクイズを用意しました。15時半にお父さんと来て、机の上の問題に興味をもちます。というか、お父さんのほうが興味津々。たいようのほうはちょっと乗り気ではありませんでしたが、お父さんがグイグイ迫るので、しかたなく取り組みます(笑)。皆さんも、ぜひこのクイズに答えてから、読み進めてみてください。

最初に彼がやったのは、線分図と分数で問題の構造を整理したことです。この時点で、「おおおおお」と思ってしまいました。彼は、小学校1年生です。まだ線分図も、分数も学校では習っていません。全体を3分の1ずつに分けて、線分図の下に、降りた人物A・B・Cを3分の1、3分の2、1のところに書き込みます。また、1のところには、料金の1800円と書き込みました。

次にやったのは倍分です(しつこいですが、彼は1年生です)。たいようの倍分のやり方は、3分の1の分母に、どんどん3を足していくというものです(分子はひとつずつ増やしていく)。だから正確には倍分ではありませんが、同じ大きさの分数になるというのは理解しています。

18分の6になったところで、お父さんの介入。気付きを促し、そこからけっこう時間をかけて、1800分の600を導き出します。お父さんもとてもファシリテイティブで、見守る姿勢で待ちます。ここで、分子の600が、距離3分の1の料金であることを突き止め、それを線分図に600、600、600と書き込み、さらに、3分の1の下に600、3分の2の下に1200と書き込みます。

たいようは、分数を理解していると前に聞いていたのですが、ここまで明確に理解しているとは思いませんでした。せいぜい同分母の足し算、引き算くらいを機械的にできる程度かなと。一番驚いたのは、線分図に最初に書き込んだ、「1」という数字です。彼は言葉でも、「3分の1、3分の2、1」と言いました。これはびっくり。「1800=1」であるということを概念的に理解するのって、めっちゃ難しいんです。彼の頭の中には、「1800を1とすると、3分の1は600である」ということが理解できていることになります。分数の導入時に、子どもたちが一番理解しにくいところです。

さて、このクイズにトライした風越スタッフの多くは、3人が乗った距離比=料金比と考え、見事に撃沈しました。すなわち…<A:B:C=1:2:3=300:600:900>ということですね。

線分図って大事なんだなぁ〜って思いました。整理、分類、比較、類推して構造化するのって、とっても必要なんだなと思います。

先日研修で参加した「野外で授業」の算数編でも、野外での遊びながらのアクティビティで、この要素が自然と学べるようにデザインされていました。あれは、野外の草の上でみんなで自然のものを使って、整理、分類、比較、類推しながら構造化を図っていました(ちなみに構造化とは、全体を把握したうえで、その構成要素について明らかになっていて、その構成要素間の関係が分かりやすく整理されている状態のことです)。大人な皆さんは、ここのところを直感に頼り、怠ってしまいました。

たいように戻りましょう。次にたいようは、線分図の中に、それぞれの区間に乗っていたのはだれかを書き込みました。それぞれ、ABC、BC、Cと書き込みます。このときにちょっとだけお父さんの介入がありました。ここで、距離比、料金比につぐ、人数比に気付くことになります。人数比は等分比なので、まず、600÷3と計算式を立て、200と最初の区間の1人当たりの料金を割り出します。(しつこいようですが、まだ1年生です。笑)線分図に200+200+200と書き込み、さらにその上に200×3とまでしつこく書きます。次に、600と書いたところで、計算しなくていいかと書くのをやめ、次の区間に300+300と書き込みます。最後の区間に600と書いて1枚めのホワイトボードは終了です。

2枚めのホワイトボードで、それぞれの料金を整理して、すべての答えを導き出しました。ここまでで、約20分ほどでしょうか。お父さんはもう得意満面です。たいようはそうでもないです(笑)お父さんが一番喜んでいました。満足げに喜び去るお父さんにさよならして、さらにこの後も、たいようの算数探究は続きます。

探究第2ステージは、まずは問題作りから始まります。私にいろいろな問題を出してきます。そのあと、私のほうから問題を出してみます。計算問題をいくつか出した後(計算もかなりできる)、図形の問題を出してみました。正方形を書いて「これは何という名前?」と聞くと、「立方体!」と答えます。うーん、はずれ…だけど…。ん?ちょっと待て、ちょっと待てよ!「立方体」なんて言葉を何で知ってるの!?おもしろそうなので、ちょっと突っ込んでみます。正方形という正解は教えずに(それは、さして重要なことではない。先生って職業の人はすぐここで教えたくなっちゃいますけどね。彼は正方形という名前は知らないけどこのカタチは四角の中の特別な形であることは知っています。だって「四角」って答えてないもの。「四角」という言葉は、幼児でも知っているしそれがどういう形なのかも理解しています。それに対して「立方体」と答えたということは、これが「四角」などというおおざっぱなものではなく、ちょっと特別な四角なんだということを知っている証拠です。さらに、「立方体」と答えているということから、彼は立方体という名前と、それがどんなものであるかを知っていると私は直感的に思いました。)、「たいようはさ、立方体って作れる?」と聞いてみます。「うん、たぶん」と答えます。「じゃあ、ちょっとさ、作ってみてよ」と投げかけて、探究のはじまりはじまり〜(足場かけ完了!)

いきなり最初から展開図ができている動画が出てきて、びっくりしたかと思います。そう、彼は立方体の展開図をサクッと書いちゃいました。もうすでに、既習事項のようです。彼がどうやってそれを獲得したのか、私にはわかりません。動画を見ていくと、0:23のところで、非常に興味深いある言葉を聞くことができます。その時は気付かなかったのですが、動画を見直しているときに気が付きました。「マジか!!」って感じです。そう、彼は「キューブ」って言ってます。「CUBE」です。なんと、彼は「立方体」のことを「キューブ」って言ってます。お父さんから教えてもらったとのことですが、彼の遊びの体験の中で、「立方体」(または箱の形をしたもの)で遊んだ経験があったってことですね。そして、それを今も「CUBE」と口にしていることから、今でもそれは身近にあって、英語で発音するくらい当たり前のことなのかもしれません。

展開図からどのように組み立てて立方体にするか言葉で説明しています。空間認識がしっかりできていますね。その横に実はおもしろい人物がいて、その子のつぶやきが聞こえてきます。「私みたいなことをしている人がいる…」と。

そう、彼のとなりにいたのは、元祖算数探究「立体の鬼」、ゆりな(2年生)です(彼女の探究については、別途ご紹介します)。彼女は今日もせっせと立体作りをしています。立方体から始まった彼女の立体探究は、当初の「積み木を再現する」という目的からどんどん発展し、今日は「たい焼きの型を再現する」です。もう何が何だかわかりません。何体めの立体でしょうか。すごい探究力です。設計図も家で書いてきて、展開図ももうお手の物です。

展開図を切り始めます。あんまり器用そうではないですねぇ…。展開図もちょっと雑なのででき上がりが心配です。

切り終わって折ってみます。やはり正確ではないのでうまくカタチになりません。でもそのときのつぶやき、ちゃんと分かってますね。失敗から次への課題をしっかりと把握しています。「全部同じ形にすると、これができるはず」と。

再チャレンジです。ここでまた彼はおもしろいことを言ってます。分数です。全部同じ形、大きさにするということを、「6分の1」という表現を使っています。「6分の1ずつあるってことは…」と、全体を6分の1に等分する、それにこだわっていきます。

ここでも「6分の1かぁ、6分の1…」とつぶやいています。そして面を書くときに、「6分の1、6分の2、6分の3…」と数えています。おもしろいですね〜。恐るべし1年生。「これでいけるはずだ」と確信の声。分数で数えていると、フリーハンドでもこころなしか正確に書けました。と、ここで、となりのゆりなから声がかかります。

(ゆりな)「定規使ったらどう?」
(たいよう)「定規ぃ〜」
(ゆりな)「そうしないとちゃんとした形にならないから」(と、たいようのまえに端が定規になっている下敷きを渡す)
(たいよう)「定規あるけどぉ…長すぎだ」(長過ぎると何が不都合なのかわかりませんが…)

という感じで、アドバイスを軽く受け流します。たぶん…めんどくさかったんだと思います。(笑)ゆりなもその後は何も言いません。

しかし、二人が並んでいるとおもしろいですね。自然と協同も生まれるかと思いますが、この微妙な距離感というか、ゆるやかさというか、サイコーです。互いにその子がやりたいことを邪魔しない、尊重している関係性。ちょっと気になることがあれば口に出すけど、無理強いはしない。(実はゆりなのさらに右にはもう1人いて、その子は私の真似をして、クイズ問題をミニホワイトボードに書いています。その子も見ているけど、何も口には出しません。その子は4年生なので知っているとは思うんですが黙って見ています。私は3人にカンファランスしながら動画を撮っています)

クイズを書いている子と私が会話しています。そこに1年生女子2人組がやってきてギャーギャー言います。(これはまだ自由時間中のできごとです)でもたいようは一心不乱に集中しています。

切り終わってセロハンテープで組み立てます。ゆりなも自分の工作を中断し注目しています。「どうして私のまねすんの?」と、とっても気になる様子。

(スタッフ)「まねじゃなくて自分で考えてやってんだから」
(ゆりな)「私だってめっちゃ自分で考えたよ」
(スタッフ)「考えたよ、たいようだって。やり方はゆりなとは違うよ」
(ゆりな)「ゆりなと同じです。ねー、かいさん」
(スタッフ)「できるものは一緒に決まってんじゃん。できあがりは一緒に決まっているよ。どこで、世界中で作っても」

さて、この会話でゆりなに伝わったかなぁ…。同じものを作っていても、その作り方やプロセスは違うということに気が付いてくれたら、「そうか!そういう方法もあるのか…じゃあ、もっと他の方法もあるかもしれない…」って広がり、深まっていくんだけどなぁ…と期待してしまいます。どちらかというと、たいようのプロセスのほうが普通(だけど年齢的に言えば異常なほど早い)で、ゆりなのプロセスは複雑で特異なものです。だから彼女はめっちゃ考えたという自負があります。たいようはあっさりやってのけたので、そこらへんが「まね」と映ったのかもしれません。

その間たいようは黙々と組み立てます。私はクイズの子のカンファランスもしながらカメラを回しています。そして、運命の瞬間!!!!「やったー!」という声が上がるかと思いきや………「まー、こんな感じかな」と一言。

たいよう…超クーーーーーーーーーーーーール!! クール過ぎる!しびれるぜ。今、何人かの大人な女性がキュン死したね。福山雅治@ガリレオの再来にしか私には見えませんでした…。

ということで、たいようの算数探究はおしまい。さらに次の立体へと発展したゆりなと違って、彼はいつもの探究課題のピタゴラスイッチつくりに戻っていきました。

この一連のたいよう(とゆりな)の算数探究は、私たちに何を示唆してくれるのでしょう。次回のゆりなの算数探究では私の考えたことを紹介します。それまでは、みなさん宿題ですよ〜。

(甲斐崎博史)