子どもと一緒に読みたい本No.11
『もりのへなそうる』

『もりのへなそうる』(わたなべしげお、福音館)
アマゾン)(楽天ブックス

「未知は好奇心の入り口」

とめどない好奇心がわきあがる、そしてそれをたっぷり満たす経験を、どれくらいの子がしているのだろう。

私にとって軽井沢で過ごすはじめての冬がやってくるのに怯えながら、あのまぶしい夏の日々を思い出しています。軽井沢での夏には、わくわくどきどきがつまっていました。とくに今でも鮮明に覚えているのは、小学校低学年のサマースクール中に子どもたちと何度も何度も森を探検したこと。

サマースクール中に子どもたちと森へ行った回数は、10回以上(森の奥へ入るには、大人の付き添いが必要となっていたので、私が何度も引率したわけですが….)。子どもたちの目当ては、森に捨てられた古いキャンピングカー「ミステリーバス」。サマースクールの会場だった鳥井原の森をかき分けながらどんどん入っていくと、怪しげな雰囲気でそこに立っています。子どもたちは、そのバスを見に行くためにとにかく森に入りたがる。

正直、はじめのうちは不思議でしょうがなかったんです。子どもたちが、なんでそんなに何度も何度も森の中に入りたがるのか。

とりわけある男の子3人は、一度ミステリーバスを見に森へ入ったのを機に、やたらと行きたがるようになりました。二度目に、森の中を少し迷うと、目をきらきら輝かせて「めっちゃ楽しい」、「こんなところ東京にはないから」、しまいには「ねぇ、もっと森で迷いたい」と言うように。ミステリーバスの中や外見に興味津々なのはもちろんのこと、歩きながら出会う森のいろんな顔をおもしろがっているんです。ふだんと違う場所で、人と違う道を進むのが楽しいようで、彼らの中で非日常感をたっぷり味わっているようでした。「学校でもこんなふうに森に入って探検する時間があったら最高」という言葉が今でも忘れられません。

今回紹介したい本は、『もりのへなそうる』。『エルマーのぼうけん』の翻訳で有名なわたなべしげおさんが作者で、『ぐりとぐら』のやまわきゆりこさんが絵を描いています。5歳のてつたくんと3歳のみつやくんの兄弟が、森へ探検に行き、そこで「へなそうる」と出会うお話です。物語中のてつたくんとみつやくん、そして「へなそうる」のやりとりが、これまたとっても可愛くておもしろい。かくれんぼをしたり、おにぎりを食べたり、川でどろんこになったり。彼らのおちゃめな言動と無邪気に遊ぶ姿に、大人でもきっと思わずクスクス笑ってしまうはずです。

私には、サマースクール中に何度も森へ入る子どもたちの姿が、この主人公の男の子ふたりが森の「へなそうる」に何度も会いに行く姿と重なりました。きっと、わからないこと、未知に対する不安や怖さはある。けれど、それ以上にわくわくとどきどきが彼らをそこへ何度も連れて行くのだろうなと。

彼らの好奇心の理由を、最初はずっと探ろうとしていました。でも、途中でやめました。どうしようもなく惹かれることに、無理に理由をつけなくていいんじゃないかなって思ったんです。たぶんその理由の一つは、私も彼らと森で過ごすうちに、似たような気持ちになっていた気がするから。森へ誘われるたびに、「もうたくさん行ったから、これ以上はいいよー」なんて大人ぶりながらも、次は森でどんな出会いがあるのだろう、子どもたちのどんな姿が見られるのだろうと心の中で思っていました。今でもわくわくどきどきしながらあの日々を思い出す自分の心が、あの時間がどんなに大切だったか物語っています。

同じようなことを、運営に携わっている放課後学び場「風越こらぼ」でも感じています。風越こらぼでは夏休み明けから、子どもたちが自分でやってみたいプロジェクトを立ち上げるようになりました。たとえば、オリジナルの紙飛行機を60機つくって売りたい、ピタゴラスイッチをつくりたい、木に穴を開けてみたいなど…。最初のうちは、見ている私にはなかなか理解できない、わからないことも正直あって。でも、だからといって子どもたちの気持ちを止めるのって違うなぁと。やってみたいことを、本人が満足するまで、飽きるまで、とことんやってみるという経験をしてほしい。その経験はきっと、その子の中にずっと鮮やかに残るのではないでしょうか。
子どもたちに「寄り添う」とは簡単に言えないかもしれないけど、でも、子どもたちの本来の欲求や姿を、ちゃんと見つめていたい。ありのままの好奇心をそばでおもしろがっていたい。そんなことを、設立準備財団のスタッフとして働き始めて半年、強く思っています。

それにしても、この本に出てくる、「へなそうる」っていったいなんだろう。どうしてそこへ現れたのだろう。難しい解釈もできるかもしれないけど、とっても単純な何かかもしれません。みなさんもぜひ、子どもの頃に戻った気持ちで、てつたくんとみつやくんと森の探検を楽しんでください。そして、読み終わった後は、おにぎりを入れたリュックを背負って、探検へ出かけてみてはいかがでしょう。

私も、軽井沢風越学園の森の「へなそうる」を探しに行こう。とめどない好奇心が、満たされるまで。(根岸加奈)