散歩

長袖、長ズボン、帽子、軍手、長靴。軽井沢風越学園の幼稚園の子どもたちの定番のいでたち。色とりどりのリュックサックの中にはおにぎりと水筒。棒、虫あみ、かご、ビニール袋など持ちたいものをそれぞれが手にして散歩に出発。行き先は決まってない。「さぁ、今日はどっち側の道に進む?」「この棒を倒して決めるー」「オッケー。カンタ、よろしく!」「あ、こっち側に倒れた。」「えー、昨日もこっちだったから反対の道に行きたい」意見が分かれ、出発前に話し合い。「昨日の雨で川がどうなってるか見たいからこっち側に行きたい。」「この前に行ったところ、そろそろお花が咲いていると思うから今日はそっちに行きたい。」「よし、じゃあ、今日は大人が4人いるから別々に行こう!」 事前に決めておくことは必要最小限にし、天気や子どもたちの様子でその日の過ごし方は決まっていく。

散歩の途中、道の真ん中でモグラの死骸を見つけた。アリが群がり始めている。その様子をじーっと見つめる子どもたち。「かわいそうだね」「血が出てるけど、どうしちゃったんだろうね」「こんなにアリが集まってるけど、モグラっておいしいのかな」保育者のしんさんが蕗の葉の上にそのモグラを載せて道の端に移動させようとしたら、「やめて!もとに戻してあげて!」と省吾が大きな声をあげた。「どうした?省吾」と声をかけるが、じっとモグラを見たまま黙っている。もとのところにモグラを戻して、出発。少したってから「さっき、省吾はどんな気持ちだったの?」と質問してみた。「だって、動かしちゃったら、モグラの家族が探しに来た時に見つけられないかもしれないから…」と目に涙を浮かべながら省吾は呟いた。

一点を見つめ、そーっと手を伸ばしている夏海と歩実。視線と手の先には朝露がきれいに並んでいるクモの巣。夏海は一粒の朝露を笹の茎を使って歩実の持つ蕗の葉っぱの上に移す。「あとは妖精さんに残しておこうね」と夏海。歩実は両手で蕗の葉っぱを大事そうに持ち、そっと歩き始めた。クモの巣の朝露の一つひとつに夏海と歩実の姿が写っていた。

走っていた颯太が転んだ。泣いている颯太に駆け寄る幸人。「颯太、大丈夫?」颯太は泣いて答えない。「痛いの?」「どこが痛いの?」と幸人は声をかけるが颯太は泣きながら首を横に振る。「痛くないけど、痛い気持ちなの?」と幸人。すると颯太は泣くのをやめ、大きく頷いた。「そっか、痛い気持ちだったのか。」幸人に手を貸してもらい颯太は立ち上がって、そのまま二人は手をつないで歩いていった。

「さとしさんの森」と呼んでいる森に到着。ここで昼食の時間。リュックサックから敷物を出し、好きな場所でおにぎりを食べる。「見て!今日のおにぎり、自分で握ったんだよー」「すごーい。わたしも今度挑戦してみよっと」 食べ終わった子から森で遊び始めている。海翔が泣いている。どうやら出発した時からずっと持っていた棒をなくしてしまったらしい。「どんな棒なの?」「海翔の持ってたやつ、長くてかっこいいやつだったよ」「探してきてやるよ」何人かの子が森に散らばり、棒を拾ってきては「これ?」と海翔に見せるが、海翔は泣きながら首を横に振る。海翔の足元にはみんなが拾ってきた棒が転がっている。がっかりしながらまた森に探しに行くことを繰り返す子どもたち。「えー、これも違うの?よく見てよ、これだよきっと。これにしようよ!」と大輔が言うが、海翔は納得しない。溜息つきながらまた探しに行く大輔。何歩か進んだ後、大輔は振り向き海翔に向かって叫んだ。「海翔、森にはな、棒がいっぱいあるんだぜ!」 すると勇が「海翔の棒、これだよね?海翔の敷物の下にあったよ。」と棒を海翔に手渡した。「海翔の棒、あったよー」と勇が叫ぶ。探していた子たちが集まってくる。「よかったな、海翔」「勇、さすがだな」「海翔、ちゃんと自分の荷物とか見ろよな!」「ごめん…」と照れ笑いの海翔。

「何だか風が変わった」と健一がつぶやく。「ほんとだ。ちょっと生あったかくもなってきた」「雨じゃない?」みんながざわつき出す。刻々と変わる空を見上げたり、風や、空気の匂いを思い思いに感じたりしている。しばらくすると雨がぽつぽつ降ってきた。リュックからカッパを取り出す子も、そのまま雨の中を駆け出す子も、雨の中で雨を楽しんでいる。軽井沢風越学園の子どもたちにとっては、雨もステキな遊び道具なのだ。

 

(2017年2月20日版)

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