理念をプロセスで体現する学校づくり

軽井沢風越学園設立準備メンバーのひとり、辰巳真理子。教育系NPO等で、さまざまな事業の立ち上げ、企画運営に関わってきた経験を活かし、現在は採用事務や広報などの事務局業務を担っています。

―「情景」を初めて読んだ時のことを聞かせてもらえますか?

最初に情景を読んだときに感じたことは、「同じから違うへ、分けるから混ぜるへ」を理念にするこの学校なら、いろんな違いを持った子どもが違うままでお互いに受け入れあって、いろいろな違いの凸凹をそれぞれに生かし合う。それぞれがそのままでいられて、それでいて一つの場として調和している印象を受けました。

人には得意なところも苦手なところもあるけれど、一定のスピードで進まざるを得ない一斉授業では、我慢しなければいけない場面があるような気がします。少なくとも私自身は、子ども時代にそういう窮屈さを感じていました。軽井沢風越学園では、凸凹がならされることなく、その子らしさが育っていくのでは、そうなったらいいなと思います。自分の息子が通うことをイメージしたときに、そんな環境は幸せだろうなとも思いました。

ー2017年2月1日のプレスリリースを見た時のことが面白いと聞きましたが…。設立準備に関わることになったきっかけは?

軽井沢風越学園の設立準備を始めます、というプレスリリースを読んで、「あれ、なんで私はこれに関わっていないんだっけ。やばい、出遅れた!」と思ったんです(笑)。ただ、当時生後8ヶ月だった息子の保育園の入園申し込みを見送ったこともあって、がっつり仕事をするのはしばらく無理だな、と思っていたんです。仕事大好き人間だった私を知る友人たちに、これから仕事どうするの?と聞かれるたびに、「今は息子と一緒にいる時間を大事にしたいし、まだそんなに仕事したい気分じゃないな」、と答えていました。でも、保育園に預けられないから、仕事をしたくないと自分で思い込んでいるだけなんじゃないかという気もしていて。本当はしたいのに、自分に自分でストップをかけているかもしれないな、と。

ひとまずは、この腰が浮くようなうずうずした気持ちを大事にしたいと思い、本城さんに「何か手伝えることありませんか?」と、これからの状況を想像して私が引き受けられそうな業務を書いてメールしたのが、2月22日のことです。子どもの預け先は、やりながら考えればいいやと、見切り発車で。すぐに、「待ってました!」というお返事をもらって、嬉しかったなぁ。そうして、2017年3月初旬から事務局の仕事を始めることになりました。

ーとんとん拍子のようだけど、もともと本城さんとご縁があった?

はい。初めて会ったのは、フリーランスで仕事を始めて間もない2007年の夏です。大学時代の友人を介して、本城さんや他数名の大人が実行委員会形式で開催していた『仕事の学校』というワークショップの運営を手伝いました。『仕事の学校』は、2011年3月で休校することになりましたが、その後も定期的に都内や軽井沢で会っては近況を交換し、ぽろぴっぴ(*1)や通学合宿(*2)を時折手伝っていました。仕事だけでなく、西村佳哲さん(*3)が主催するワークショップに一緒に参加するなどの機会を重ねる中で共通の友人が増えていって。私にとっては心強い仲間の一人というか、何かあった時に話をきいてもらいたいなと思う親戚のような存在です。

2016年の夏頃、本城さんから学校づくりのことを聞き、あぁ、ついにだな、と嬉しく思いました。ただ、その少し前の5月末に出産して、子どもとの生活が始まったばかりだったので、しばらくは自分事として考えられなくて。11月頃に、在宅でできる範囲で広報の一部を手伝ってほしいと声をかけてもらい引き受けましたが、まだその時もどちらかというと受け身の姿勢だった気がします。
年が明けた2017年1月頃から、少しずつ今後の仕事のことを考え始めるようになっていたところ飛び込んできたプレスリリースのニュースに、やっぱりこのプロジェクトに関わりたいと思いました。

やりたいと思った気持ちをブロックしない

-働くにあたって挑戦してみたいことや、働き方のイメージはありますか?

なんだろうなぁ。せっかくなので、未経験のことには興味があります。現状は、在宅でできる範囲でスキマ時間を使って仕事している状況なので、限られた時間の中で、やりたいと思った気持ちをブロックせず、どうやったらできるかを徹底的に考えることでしょうか。子どもを言い訳にしないで、自分事として仕事で成果を出すというか。

これまでの仕事では、少数精鋭のチームで働くことを好んで選んできました。派閥や上下関係、社内調整とかが本当に苦手で、多くても10人くらいまでが心地よかった。これからどんどん新しい仲間が加わって、最終的に30人くらいのチームになったときに、自分がどんなふうに感じるかは未知数です。自分が学校で働くことになるなんて、今までこれっぽっちも思っていなかったので、先生たちがどんな価値観の人たちなのか、何を成果軸にして仕事をする人たちなのか、新しいことばかり。過去の居心地の良い場所から飛び出せるか、が一つのチャレンジかもしれません。年々、自分のこだわりを手放せている感じはあるので、なんとかなる気もします。

風越が大切にしていることを大事にしながら進める学校づくりは、いろいろな人を巻き込みながら広いネットワークでつくっていくイメージ。私自身のこれまでの仕事のやり方とも似ています。とはいえ、風越っぽいけど自分っぽくないなというときに、どうしようかと思うことはあるかもしれない。自分がこうだと思っていることを本当にそうか?と問い直してもなお、そうだとしたら、自分のことを大事にするのではないかと思います。いま一緒に学校をつくっている仲間は、自分が思っていることを大事にしたいときに、「ちょっと違うな」と言える仲間だと思うし、それが言いにくくもない。表明して、「じゃあどうすればできるかな」というやりとりができる。一方、自分で問い直したときに、やっぱりこれはこだわりだったから、一旦手放してみよう、と思うこともあるような。こだわりって自分らしい、と思っていることが多いけど、ほとんどは勝手な思い込みや勝手なこだわりであるという気もして。新しい学校をつくるプロセスで、そういうやり方もありだな、と思える新しい視点に出会えることも楽しみです。

言葉と内実に齟齬のないプロセス

ー今後、何を大切にしながら、どんな仕事を担っていきたいですか。

正直、仕事の内容にはあんまりこだわりがありません。今は広報や採用事務を担当していますが、少しずつ増えていくメンバーや変わる状況に合わせて、柔軟に変化していければと思います。

風越学園に関わる前は、東日本大震災後の東北沿岸部で復興に向けた様々な課題解決に取り組むリーダーに対して、人材を中心としたリソースをコーディネートする仕事をしていました。いずれ軽井沢に転居すれば、地域との関係づくりや連携の動きを担えるかなとは思っています。「地域に根ざした、地域に開かれた学校」とは、どういう状態のことを言うのか。コミュニティの中で活かされている学校にするには、どんなことが必要かを考えています。

また、仕事の内容よりは、どんなふうにやるか、どんなプロセスをたどるかのほうが、より気になっています。軽井沢風越学園の目指す学校像は開校後に始まるのではなく、設立前のプロセスの中でも、掲げていることと齟齬がないことが大切だなと思っていて。言葉だけでなく、行動にしみこませていくようにしたいです。理念や情景がわかりやすい言葉で表現されているから、わかったような気になってしまう、できるような気になってしまうけれど、実際に実行しようとすると、たとえば無意識に「分けて」いたり、無意識に「同じ」になっていることが、たくさんあります。だって、その方が楽だし早いから。今までのパターンで、なんとなく排除していたり、避けがちなことを、あえて混ぜていくこと。そういうことを少しずつでも実践していきたい。言葉で言っていることと、内実がなるべく近い状態を開校までにつくっていきたいです。

これまでのミーティングで議論に行きづまったら、風越の理念や思想に立ち戻っていく、ということが何度もありました。私個人の仕事としても、これって風越らしい仕事の仕方かな、という確認し続ける視点を忘れずにいたいです。

凸凹のままに、変化し続けられる組織づくり

ー10年後、軽井沢風越学園と辰巳さんは、それぞれどんなふうになっているでしょう。

開校して7年くらいか。その頃には、開校時のメンバーから変化がありそうですね。立ち上げ期から知っている人と新しい人が混ざり合って、色んな凸凹が起こりそう。その頃にできつつある風越の「型」に触れた新しい人が違和感や疑問を持って、変化が生まれるというか。その時に一定の力で統一するというよりは、凸凹があるままで、違和感を大事に変化し続けられる組織づくりに関与していきたいなと思います。たぶん現時点でも、開校時にも、凸凹な組織だと思うんです。いろいろな年齢や経験、背景を持つメンバーが集まって、大人も全員風越1年生。もちろん風越の目指す理念に共感していることは大事だと思うけれど、違うからこそ生まれる価値や強みがあると思うし、大人の凸凹が許容されている学校だからこそ、通う子どもたちも、そうやって育っていける気がします。

あとは、スナックをやるのが長年の夢なので、その頃には始める準備をしているかもしれません。もうできてるかな。地域の人たちと学校のスタッフが、ざっくばらんに集いながら、学校を介した新しい試みが生まれていくお店になったら、楽しそうだなと思います。

(2017/7/29 インタビュー実施)

*1  ぽろぴっぴ
園舎を持たない野外保育「森のようちえんぴっぴ」が行う小学生を対象とした活動。

*2  通学合宿
地域の公民館・集会所・青少年施設・学校などの宿泊可能な施設で、異年齢の子どもたちが共同生活を行いながら通学する取り組み。全国各地で行われている。軽井沢では2014年から2016年まで本城が中心に軽井沢町立中部小学校に通う小学生8名程度を対象に年に数回、一週間の日程で実施していた。

*3 西村佳哲さん
リビングワールド代表、プランニング・ディレクター、働き方研究家。つくる・書く・教える、の3種類を仕事にしている。2014年から徳島県神山町で暮らし、一般社団法人神山つなぐ公社の理事をつとめる。著書に「自分の仕事をつくる」、「かかわり方のまなび方」など。